Page Top

Introduction

イントロダクション

 アルゼンチン・タンゴに革命を起こしたアストル・ピアソラ。20世紀で最高の作曲家のひとりと評される彼の作品は、チェリストのムスティスラフ・ロストロポーヴィチやヨーヨー・マ、ピアニストのマルタ・アルゲリッチなど第一線で活躍する音楽家たちに愛されている。また、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』でも2曲、印象的に使用されている。タンゴの枠を超えて世界中で演奏されるピアソラの音楽は、どこから産まれたのか。没後25周年となる2017年に母国アルゼンチンで開催された回顧展にあわせ、彼の功績と家族の絆を紡いだドキュメンタリーが制作された。
 ピアソラはアルゼンチン出身の作曲家・バンドネオン奏者。アルゼンチン・タンゴの前衛派として1940年代から活躍し、踊るためのタンゴから聴くためのタンゴに転化させた先駆者で、「ロコへのバラード」「リベルタンゴ」などのヒット曲を送り出した。新しいタンゴを厳しい態度で批判するタンゴ純粋主義者やメディアと闘い、正当な評価が受けられないストレスから一時はタンゴを捨てたピアソラ。そんな彼を献身的に支えた妻と、尊敬の眼差しで見つめる子供たち。本作では、8mmフィルムで撮影された家族の日常や趣味の鮫釣りの映像を始め、ピアソラの自伝を執筆した娘のディアナが録音したピアソラへのインタビュー音声など、未公開の素材を選りすぐり、けんかっ早くてお茶目なピアソラのもうひとつの素顔に迫る。また、ツアー先などで行われた各国のインタビュー映像やライブ映像に加え、彼のタンゴを酷評する評論家と電話で口論する生々しい肉声も収録。辛く厳しい闘いの日々を想起させる。
 監督は初長編監督作『Saluzzi - rehearsal for a bandoneon and three brothers』(02・日本未公開)が、ベルリン国際映画祭でルイジ・デ・ラウレンティス賞を受賞したドキュメンタリー作家のダニエル・ローゼンフェルド。監督自身もピアノを弾き、ピアソラの音楽を愛しているが、本作制作のきっかけとなったのは、息子のダニエル・ピアソラ自身から直々に父ピアソラのドキュメンタリー製作を提案されたことだという。ダニエルは、ローゼンフェルド監督がアルゼンチンのバンドネオン奏者ディノ・サルーシを取り上げた過去作を観ていたのだ。唯一の肉親から、たっての依頼を受けた監督はプロジェクトを立ち上げ、国内外に散らばる膨大なアーカイブと、ピアソラ財団が所有する貴重な資料などをリサーチするために、4年の歳月を費やした。
 音楽はタンゴ一色だ。ピアソラ曰く「“チャン チャン”で終わる」伝統的なタンゴから、少年期のピアソラがラジオ局で弾いたたどたどしいポルカ、彼が所属したトロイロ楽団のタンゴ、物議を醸したピアソラの斬新なタンゴ、そして、アルゼンチン随一のコロン劇場でオーケストラをバックに晩年のピアソラが熱演する重厚なオーケストラ版「アディオス・ノニーノ」など、全編でタンゴが流れる。
 71歳で亡くなるまで、音楽一筋に生きたピアソラ。天才の早すぎる死を惜しみ、命を削るように作られたピアソラの名作を堪能する、傑作音楽ドキュメンタリーがここに誕生した!